日記

2012/05/07(Mon)
『大山倍達の遺言』を読む
 直接打撃制の空手で知られる極真空手の創始者・大山倍達の命日に合わせて近頃出されたのが本書である。大山が亡くなった1994年4月26日からすでに丸18年がすぎている。その後、同会は組織として四分五裂の様相を見せて現在に至るが、その過程を事実に則して追ったドキュメントだ。往年の極真ファンにとっては、目からウロコといった内容の記述が随所に見られる。
 ひとつは、分裂の原動力となったのが、一人の男の醜い嫉妬と功名心にあったという指摘であろう。本書ではそのキーパーソンとして、新極真会の三瓶啓二・福島支部長(前代表)を中心に据える。描かれるのは大山から後継指名を受けたとされる松井章圭氏に対する妬みや憎悪を基点とする三瓶氏らを中心とした組織内の分派活動であり、そこには自ら大山総裁の“後釜”に座りたいとの野望が横たわっていた事実を記述する。
 三瓶氏はその自らの願望を実現させるため、自分は表に出ることなく、他の支部長を背後から操りながら好き勝手放題に行動する。大山総裁が生前、私の家族を巻き込んではならないと繰り返していた遺志をことごとく無視し、遺族を担ぎ上げて派閥闘争に精を出してきたとされる。
 極めつけは、大山倍達の実娘の一人と不倫関係を結び、子どもまで産ませたとのスキャンダラスな指摘であろう。三瓶氏は海外支部を訪問した際、「私は大山総裁の孫の父親である」と自ら宣伝し、自分が“後継者”であることをアピールする材料にまで使ったという。まさに目的のためには手段を選ばない行動そのままだ。
 本書の核心部分を要約すれば、以上のようなことが書かれている。三瓶氏にとっては、空手生命を失うような衝撃的な事実が記されていることになるから、本書では、名誉棄損で訴えられても勝負できるように極めて広範囲に取材が行き届いており、記述も客観・公平に見える。
 現在の極真空手の世界は、小さい組織を除くと大きく3つの団体に分裂しており、松井極真会館(5万人)、新極真会(1・5万人)、極真館(7000人)となっている。本書によれば、新極真会は三瓶氏によって扇動され、クーデター的に設立された団体ということであり、唯一、この書籍の正式な取材を「拒否」した団体だ。